不妊症とは
不妊症とは、「妊娠を希望し、ある一定の期間性生活を行っているにもかかわらず、妊娠できない状態」を言います。
妊娠のために排卵日をとくに想定していなくても、避妊をしないで性生活を行っていれば、約80%の夫婦は1年以内に自然妊娠します。言い換えるなら、排卵日を想定した性生活を行っていなくても、1年を経過して妊娠していなければ不妊症の可能性が高いということです。
排卵日を想定していた場合は、6ヵ月間程度がその目安となります。
妊娠を望んでいるにもかかわらず、その願いがなかなか叶わないご夫婦は約10%の割合でみられます。
妊娠の成り立ち
妊娠が成立するためにはまず
- 卵巣内の卵子が成熟して卵巣から飛び出します(排卵)。
- 次に排卵した卵子が卵管の先端から卵管内に吸い込まれ、卵管内を子宮に向けて運ばれていき、卵管膨大部に到達します。
- 一方腟内に射精された精子は、子宮の中へ自力で泳いで入り、その一部が同様に卵管膨大部に到達します。
- 卵管膨大部に到達した卵子と精子が出会い受精が起こります。
- こうしてできた受精卵は細胞分裂を繰り返し、発育しながら、子宮に向けて5~7日間かけて運ばれます。
- やがて十分に発育した受精卵(胚盤胞)は子宮内膜に接着した後、子宮内膜の中に潜り込みます(着床)。
このように、妊娠が成立するためには、1~6までの一連の現象が順調に行われる必要があります。
不妊症の原因
不妊症には多くの原因があり、女性側、男性側、男女双方、原因不明に分けられます。
以前は男性因子の割合は少ないとされていましたが、世界保健機構(WHO)の統計では、不妊症の原因が女性側のみ(41%)、男性側のみ(24%)、男女双方(24%)、原因不明(11%)となっており、不妊症夫婦の約半数は男性にも原因があることがわかっています。つまり女性も男性も双方とも検査を受けることが重要です。
女性側の原因には、卵子の老化、排卵障害、卵管の異常、ホルモン異常、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮奇形、子宮内膜の異常、抗精子抗体などがあります。
男性側の原因には、精子の数や運動性等の異常、性交障害などがあります。
原因不明不妊
不妊症とは、妊娠の成り立ちのどこかに障害が起こっているために妊娠が起こらない状態と考えられますが、現在の医療では、妊娠成立の仕組みがすべて解明されているわけではありません。
このため、約10%の患者さんが原因不明不妊と診断されています。しかし、医療の進歩とともにこの割合は減少しつつあります。
不妊症の検査
「妊娠できるかどうか」は残念ながら検査ではわかりません。
一定期間妊娠が成立しない場合に不妊症と診断されます。検査でわかる不妊の原因ももちろんありますが、原因不明不妊と呼ばれる、検査で異常が出ないにもかかわらず妊娠が成立しない場合も少なからずあり、治療を進めていくことによってその原因が明らかになっていくケースもあります。
治療方針を決める際には、検査結果だけでなく、ご夫婦の年齢、今まで受けた治療、不妊期間など、総合的に判断して進めてまいります。
基本検査
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内 診
子宮や卵巣、骨盤内の異常の有無(子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、卵巣のう腫等)がわかります。
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クラミジア検査
クラミジアは卵管の炎症を引き起こす代表的な菌です。感染してもほとんどは無症状で、子宮から卵管、そして腹膜へと炎症が広がり、不妊の原因になることがあります。
クラミジアの検査には、血液から感染したことがあるかをみる抗体検査と、直接子宮頚管にクラミジアがいるかをチェックする抗原検査の2通りがあります。
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一般採血
卵巣に関連するホルモン以外で、排卵障害の可能性となる異常がないかを検査します。
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ホルモン検査(採血) … 1
卵巣の機能をチェックするために、脳下垂体から分泌されるLH、FSH、プロラクチンおよび、卵巣から出る女性ホルモンを測定します。
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子宮鏡検査 … 2
子宮内膜にポリープなど着床障害の原因となる異常がないかを調べます。
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子宮卵管造影 … 3
月経の終わりかけぐらいから排卵前に行う検査です。
造影剤を使用して子宮内腔の形に異常がないか、卵管が通っているかなどを調べます。
事前にクラミジア検査を済ませている必要があります。
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経腟超音波検査 … 4-1
子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、子宮奇形等子宮の状態や、卵巣のう腫等卵巣の異常の有無を調べたり、卵胞径や子宮内膜厚の計測をします。
排卵日付近に子宮の内膜は厚くなり、着床への準備を整えます。
また、卵子の入っている卵胞は20mm程に大きくなります。これらを超音波でチェックし、排卵日を推測します。
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頚管粘液検査 … 4-2
排卵日近くなると子宮の出口から頚管粘液が分泌され、精子が子宮内に侵入するのを補助します。この分泌状態を調べます。
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尿中LH … 4-3
LHは排卵が近づくと一過性に急激な増加を示し、その約36時間後に排卵する確率が高くなります。
尿中にこのLHがどのくらい分泌されているかを検査し、排卵日を推測します。
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黄体機能検査 … 5
卵子が排卵された後の卵巣には黄体ができ、黄体ホルモンを分泌します。
黄体ホルモンは子宮内膜を厚くし着床を促します。そこで排卵後に超音波で子宮内膜をチェックし、血液検査で黄体ホルモンを測定します。
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精液検査 … 6
精液の量、1mlあたりの数、運動率を調べます。
必要に応じて行う検査(下記以外の検査を行うこともあります)
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基礎体温
排卵後に分泌される黄体ホルモンにより体温は上昇します。自宅でできる簡単な検査で、排卵の確認などに使えます。
ただし、体温はホルモンの影響以外でも大きく変動しますので、1日ごとの温度を気にする必要はなく、全体の変化をみてください。
また、基礎体温で排卵日を予測することはできませんし、振り返ってみて排卵日を特定できることもありません。
抗精子抗体(自費)
女性の体内に精子に対する抗体があると、精子は頚管粘液内で動けなくなってしまいます。この抗体があるかは血液検査でわかります。
精子特性分析検査(自費)
CASAというコンピュータで、精子の速度など動きの詳細を解析する検査です。
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AMH(自費)
AMHは前胞状卵胞内の顆粒膜細胞で主に作られるホルモンです。FSHと合わせて行い、卵巣の予備能力の評価や、排卵誘発剤に対する反応を予測することができる血液検査です。
「卵巣年齢」とよばれたりしますが、実際は卵子の老化の程度や卵子の質がわかるわけではなく、妊娠しやすさが判明する検査ではありません。
LH-RHテスト・TRHテスト
下垂体の機能に関する精密検査です。
男性ホルモン・インスリン
多嚢胞性卵巣症候群を疑う場合等に検査します。
不妊症の治療
当クリニックでは、ご夫婦の年齢、不妊原因、今まで受けた治療、不妊期間などを総合的に判断し、治療方針を決めていきます。女性の年齢が若く、明らかな不妊原因がなければ、肉体的、経済的に負担の少ない方法から始めていきます(ステップアップ法:タイミング法→人工授精→体外受精)。
しかし女性の年齢が高く(30歳代後半以降)、卵巣機能低下、卵子数の減少が疑われる場合には、ステップアップ法による時間的なロスが問題となりますので、妊娠率のより高い治療を考慮します。
誰でも自然に近い方法での妊娠を望んでいることは間違いないと思いますが、自然にこだわりすぎて同じ治療を長く繰り返すことにより妊娠のチャンスを逃すことのないよう、速やかなステップアップをおすすめします。
タイミング法
経腟超音波検査による卵胞径や子宮内膜厚の計測、尿中LH検査、子宮頚管粘液の状態の観察などにより排卵日を推測し、タイミング指導をいたします。
タイミング指導はあくまで排卵日を予測しているのにすぎないので、不妊症でない人が自然よりも少し早く妊娠できる方法です。不妊期間がまだ短く不妊かどうかわからない方などに向いています。
人工授精(AIH)
排卵日に合わせて、ご主人に精液を採取していただき、精液を調整して良好な運動精子を選別し、細いチューブを用いて子宮内に注入する方法です。
精液検査で軽度の異常がある、フーナーテストが不良である、性交障害があるなどの場合に適応となります。
子宮に精子を入れるところまでが「人工的」で、そのあとは自然妊娠と同じです。
当クリニックでは良好運動精子をできるだけ多く回収するために、専用の精子調整液を使用して遠心分離、洗浄濃縮後に人工授精を行っています。
人工授精では通常、痛みを感じることはほとんどなく、実施後はわずかな時間の安静で帰宅できます。出血が少量ある場合もありますが、まず心配いりません。
人工授精の妊娠率は女性の年齢や精子の状態により大きく異なります。しかし、人工授精で妊娠した方の9割以上が人工授精5~6回までに妊娠をされています。
3~6回を実施回数の目安とし、とくに女性の年齢が高い場合は、回数にこだわらず早めにステップアップを検討する必要があります。
当クリニックでは、精液の取り違え防止のため、同一時間に精液の持ち込みが重ならないよう、時間を指定させていただいております。
体外受精など高度生殖医療(ART)
人工授精でもなかなか妊娠できない場合や、卵管が両方つまっている場合、重症の男性因子の場合は、体外受精や顕微授精などの高度生殖医療とよばれる治療が必要となってきます。
詳しくは
体外受精など高度生殖医療(ART)をご覧ください。
体外受精など高度生殖医療(ART)
卵子を体外に取り出し(採卵)、採取した精子と受精させ、その後培養した受精卵を子宮内に戻す(胚移植)ことで妊娠を成立させる方法です。
体外受精で受精が起こらなかった場合や、体外受精では受精が不可能なほど精子の状態が悪い場合には、顕微授精という、細い針を使って卵子の中に精子を1個注入する方法を用います。体外受精や顕微授精によって得られ、移植をしなかった胚は凍結保存し、その後融解して胚移植を行います。
これらの治療によって、以前には子どもに恵まれなかった方々にも元気な赤ちゃんを誕生させており、これまで世界中で400万人以上の赤ちゃんが生まれたと推測されています。
体外受精は、加齢に伴い卵子が老化し治療を急ぐ必要がある場合、卵管性不妊症、男性不妊症、子宮内膜症、免疫性不妊症(抗精子抗体陽性)、原因不明不妊などに適応となります。
体外受精を行う際には、採卵するにあたり排卵誘発法が行われますが、薬剤を極力使用しない自然周期法から、多くの卵子を採卵するための刺激法までさまざまな方法があります。どの方法が優れているということではなく、それぞれ個々の状態に合わせて、排卵誘発剤に伴う副作用を極力減らし、妊娠率を維持できる最もよい方法を採用します。
その他妊娠率向上のために、胚盤胞移植やアシステッドハッチング他各種の方法を取り入れております。
当クリニックでは、取り違え防止のため、卵子、精子、胚の取り扱いには細心の注意を払い、培養室内のあらゆる作業にダブルチェック、トリプルチェックを徹底して行っております。
さらに停電時に備えて自家発電装置を装備し、培養器にも24時間監視装置を設置しております。
料金について
保険適用価格(患者さま負担:30%)2022年4月~
一般不妊治療・人工授精
一般不妊治療管理料 (3ヶ月に1回) |
750円 |
人工授精 |
5,460円 |
1.生殖補助医療
生殖補助医療管理料 (体外受精周期毎) |
900円 |
排卵誘発剤:実費(保険) |
約10,000~20,000円 |
超音波、ホルモン検査(保険) ※1周期3回程度 |
1回 4,000円 |
2.採卵
採卵毎に下記を加算
1個 |
7,200円(合計 16,800円) |
2個~5個 |
10,800円(合計 20,400円) |
6個~9個 |
16,500円(合計 26,100円) |
10個以上 |
21,600円(合計 31,200円) |
(麻酔は別途)
3.受精法
3-1. 媒精(ふりかけ) |
12,600円(個数にかかわらず) |
3-2. 顕微授精(ICSI)
1個 |
14,400円 |
2個~5個 |
20,400円 |
6個~9個 |
30,000円 |
10個以上 |
38,400円 |
※両方実施の場合は顕微授精+媒精の半分(6,300円)
4. 受精卵培養(採卵翌日から:受精した個数毎)
1個 |
13,500円 |
2個~5個 |
18,000円 |
6個~9個 |
25,200円 |
10個以上 |
31,500円 |
5. 胚盤胞加算(胚盤胞培養個数)
1個 |
4,500円 |
2個~5個 |
6,000円 |
6個~9個 |
7,500円 |
10個以上 |
9,000円 |
6. 胚移植
新鮮胚移植 |
22,500円 (AHA/GLUE込:28,500円) |
融解胚移植 |
36,000円 (AHA/GLUE込:42,000円) |
※AHA(アシステッドハンチング)3,000円
※GLUE(ヒアルロン酸培養液添加)3,000円
7. 胚凍結保存
1個 |
15,000円 |
2個~5個 |
21,000円 |
6個~9個 |
30,600円 |
10個以上 |
39,000円 |
【例1】刺激周期(採卵 5個、全て媒精、新鮮胚移植 1個、余剰胚凍結 1個の場合)
生殖補助管理料 |
900円 |
採卵 5個 |
20,400円 |
媒精 |
12,600円 |
培養(仮:3個) |
18,000円 |
新鮮胚移植 |
22,500円 |
胚盤胞(2個) |
6,000円 |
凍結(1個) |
15,000円 |
薬剤、ホルモン検査、超音波 |
約20,000円 |
合計 |
約120,000円 |
【例2】刺激周期(採卵 10個、媒精 5個、顕微授精 5個、全胚凍結 5個の場合)
生殖補助管理料 |
900円 |
採卵 10個 |
31,200円 |
媒精 |
6,300円 |
顕微授精 |
20,400円 |
培養(仮8個) |
25,200円 |
胚盤胞(6個) |
7,500円 |
凍結(5個) |
21,000円 |
薬剤、ホルモン検査、超音波 |
約20,000円 |
合計 |
約140,000円 |
※回数のカウントは、「移植」までした場合を基準とし、「採卵」の回数ではありません。
※高額療養限度額制度を利用した場合は還付あり。
不妊治療費助成制度
この制度は、医療保険が適用されず高額の医療費がかかる特定不妊治療(体外受精・顕微授精)を受けられたご夫婦に助成金が支給される制度です。
当クリニックは北海道の特定不妊治療助成医療機関に指定されています。
また、北海道以外に在住の方も、指定する医療機関であれば申請可能としている自治体は多数あります。
詳しくはお住まいの地域の自治体にお問い合わせください。
令和4年度
不妊治療臨床成績
表は横スクロールしてご覧いただけます。
治療内容 |
治療を受けた方 |
妊娠された方 |
ART |
22名 ※1 |
8名(36.3%) ※2 |
IUI(AIH)※3 |
38名 |
17名(44.7%) |
タイミング ※3 |
108名 |
49名(45.3%) |
- ※1 胚移植された方のみであり、採卵のみの方は含まれません。
- ※2 治療を受けた方の年齢によって妊娠率は大きく異なります。
- ※3 排卵誘発を併用されている方が主ですが、自然周期の方も含まれます。
その他、排卵障害の有無や子宮内膜の厚さ等によっても妊娠率は異なります。
※治療成績内容に関してのご質問につきましては、お電話での対応は出来かねる場合がございます。
来院時に対応いたしますのでご了承願います。
よくあるご質問
- 初診はいつ受診すればいいのですか?予約は必要ですか
- とくにどの時期がベストというのはありません。都合の良いときにいらしてください。
問診はどの時期でも可能ですし、来院された時点で実施可能な検査から行っていきます。
当クリニックでは予約のない方の診療も行っていますが、原則予約制です。
予約の方が優先となりますので、予約されるようおすすめいたします。
- 初診の際に夫と一緒に受診する必要がありますか?
精液検査には夫の受診が必要ですか?
- 初診の際は奥様だけでも、ご夫婦ご一緒でもかまいません。また、精液検査の際には奥様に検査容器をお渡しし、自宅採取後に持参していただければ、ご主人の受診は不要です。
- 事実婚や夫婦別姓でも治療をしていただけますか?
- 未婚の方、未入籍の方、事実婚の方の治療も行いますが、注意点が何点かございます。
夫婦別姓の場合も同様です。詳しくはスタッフまでお尋ねください。
- 以前に他の病院への通院歴がある場合、紹介状は必要ですか?
- 紹介状がなくても全く問題はありませんが、紹介状があるほうが当クリニックでの検査・治療がよりスムーズに運びます。また、同じ検査を繰り返さなくて済む場合があります。
紹介状がない場合でも、もし検査データをお持ちでしたらご持参ください。
- 2人目不妊ですが、子どもは連れて行くことができますか?
- プレイルームを設けておりますので、お子さま連れでご来院いただくことは可能ですが、お子さまを1人にすることのないようにお願いいたします。
- 土曜日しか受診できないのですが?
- 検査・治療の受診日は、排卵日や生理開始から何日目などで決定され、それぞれ時間の指定があるものも多くあります。したがって土曜日と平日の夕方のみでは十分な検査や治療は行えません。ある程度は仕事に影響することをご理解ください。
- 検査や治療は保険でできますか?
- 当クリニックでは、保険で扱える検査や治療は保険で実施しております。
ただし、検査の中には保険が使えないものもあり、回数によって保険が使えなくなる検査もあります。
人工授精や体外受精などの治療は保険適応外(自費)となります。
- 検査にかかる費用は?
- どこまでの検査が必要かは各ご夫婦により異なるため一概には言えませんが、当クリニックで基本検査としておすすめしている検査を一通り実施する(保険でできるものは保険で実施)と、およそ20,000円かかります。
- 子宮卵管造影検査は痛いですか?
- 静かにゆっくり造影剤を注入することにより、ほとんどの方がごく軽い痛みで済んでいますが、癒着や狭窄を伴う場合は痛みがやや強い場合もあります。
※お電話での治療に関しての内容・成績・その他のご質問につきましては出来かねる場合がございます。
治療に関してのご質問等は来院時に、医師・専門スタッフが対応させていただきます。ご理解ご了承願います。